この記事では、「はさみうちの原理」についてわかりやすく解説していきます。
はさみうちの原理を使って極限を求める方法と、使うときのコツを例題を通して説明しますので、ぜひマスターしてくださいね!
目次
はさみうちの原理とは?
はさみうちの原理とは、関数の極限や数列の極限を求めるときに利用できる次の原理です。
関数 \(f(x)\), \(g(x)\), \(h(x)\) について、\(x\) が \(a\) に近いとき、
常に \(f(x) \leq g(x) \leq h(x)\) かつ \(\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) = \lim_{x \to a} h(x) = A\) ならば
\begin{align}\displaystyle \lim_{x \to a} g(x) = A\end{align}
数列 \(\{a_n\}\), \(\{b_n\}\), \(\{c_n\}\) について、\(n\) が十分に大きいとき、
\(a_n \leq b_n \leq c_n\) かつ \(\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} c_n = A\) ならば
\begin{align}\displaystyle \lim_{n \to \infty} b_n = A\end{align}
不等式の両端の極限値が同じ値に収束すれば、はさまれた項の極限値も同様に収束することを示しています。
ある関数や数列の極限が直接求められないとき、極限値が求められるものではさんであげる(= 不等式を作る)ことで、目的の極限値を求める方法です。
はさみうちの原理の使い方
ここでは、はさみうちの原理の使い方を説明します。
はさみうちの原理はいつ使う?
はさみうちの原理が役に立つのは、次のようなときです。
- ある式の極限が不定形で、直接求められない
- その式をシンプルな式または値ではさむ不等式が立てられそう
不定形の中でも、極限をとろうとしても振動してしまう周期関数(三角関数など)や、ガウス記号を含む関数(ある値について、それを超えない最大の整数値を表す関数)で特に有効です。
不定形の極限の解消法には、はさみうちの原理だけでなく、式変形による方法もあります。
不定形の極限の解消法!極限値の求め方を徹底解説
不等式ではさみうちするコツ
不等式ではさみうちすると言っても、その不等式を立てる部分がなかなか難しいですよね。
コツとしては、問題の式をものすごく大雑把に見ることです。
「\(\sin x\) なんてせいぜい \(\pm 1\) 程度だし、\(x\) が大きければ \(x\) と比べて無視できるな」とか、「\(n\) が大きければ、\(n^2\) は \(n\) を無視できるぐらい大きいでしょ」とかいった感じです。
このような見方をすると、不等式を作る見通しが立てやすくなります。
例題①「関数の極限を求める」
次の例題を通して、はさみうちの原理を使った関数の極限の求め方を説明します。
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \frac{\sin x}{x}\) を求めよ。
分子の \(\sin x\) は周期関数なので、\(\infty\) の極限では少し扱いづらいですね。
こんなときに、「はさみうちの原理で間接的に極限を求められないか?」と考えます。
\(\sin x\) がとりうる値の範囲を考えると、自ずと不等式が立てられます。
\(−1 \leq \sin x \leq 1\) より、\(x > 0\) のとき
\(\displaystyle −\frac{1}{x} \leq \frac{\sin x}{x} \leq \frac{1}{x}\)
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \left( \pm \frac{1}{x} \right) = 0\) であるから、はさみうちの原理より
\(\color{red}{\displaystyle \lim_{x \to \infty} \frac{\sin x}{x} = 0}\)
このように、三角関数を含む \(\infty\) の極限では、はさみうちの原理を疑ってみましょう。
例題②「数列の極限を求める」
次の例題を通して、はさみうちの原理を使った数列の極限の求め方を説明します。
考え方は関数の極限と全く同じです。
\(\displaystyle a_n = \frac{n! \sin \left( \frac{n\pi}{4} \right)}{n^n}\) のとき、\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n\) を求めよ。
複雑な数列の極限ですが、まずは式を大雑把にみて、極限値をある程度予想します。
- 無限大に向かう \(n\) の階乗やべき乗が含まれているから、\(\sin\) の部分はほとんど無視できそう
- \(n!\) よりも \(n^n\) の方が明らかに大きそう
これらのことから、「分子よりも分母が圧倒的に大きく、\(0\) に収束するのではないか?」という予想が立てられます。
ここでは、はさみうちの原理を \(2\) 回使って不等式を作り、\(\sin\) の予想、\(n!\), \(n^n\) の予想を実際に確認すれば、うまく極限を求められます。
\(\displaystyle −1 \leq \sin \left( \frac{n\pi}{4} \right) \leq 1\) より
\(\displaystyle −\frac{n!}{n^n} \leq \frac{n! \sin \left( \frac{n\pi}{4} \right)}{n^n} \leq \frac{n!}{n^n}\)
すなわち
\(\displaystyle −\frac{n!}{n^n} \leq a_n \leq \frac{n!}{n^n}\) …①
また、
\(\begin{align}n! = 1 \cdot 2 \cdot 3 \cdot \cdots \cdot n &\leq 1 \cdot n \cdot n \cdot \cdots \cdot n \\&= n^{n−1}\end{align}\)
より
\(\displaystyle \frac{1}{n^n} \leq \frac{n!}{n^n} \leq \frac{n^{n − 1}}{n^n} = \frac{1}{n}\) …②
ここで、
\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n^n} = \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} = 0\) であるから、はさみうちの原理より
\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{n!}{n^n} = 0\)
また、\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} \left( −\frac{n!}{n^n} \right) = 0\)
よって、①においてはさみうちの原理より
\(\color{red}{\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = 0}\)
不等式の立て方は \(1\) 通りとは限りません。
上記の例題では、次のような別解もあります。
①、②より
\(\displaystyle −\frac{1}{n} \leq − \frac{n!}{n^n} \leq a_n \leq \frac{n!}{n^n} \leq \frac{1}{n}\)
→ \(\displaystyle −\frac{1}{n} \leq a_n \leq \frac{1}{n}\)
としてはさみうちの原理を使う
また、\(\displaystyle \frac{n!}{n^n}\) が \(0\) に収束することは覚えておくとよいでしょう。
はさみうちの原理の練習問題
最後に、はさみうちの原理を使う練習問題に挑戦しましょう。
練習問題①「三角関数の極限(cos)」
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \frac{x − \cos\frac{x}{2}}{x − \cos x}\) を求めよ。
\(x\) が大きいとき \(\cos\) の値は \(x\) に対して十分小さく、無視できそうです。
とすると、極限値はおおよそ予想できますね。
周期関数 \(\cos\) をはさみうちの原理で上手く処理してあげましょう。
(見切れる場合は横へスクロール)
\(\displaystyle f(x) = \frac{x − \cos\frac{x}{2}}{x − \cos x}\) とおく。
任意の実数 \(y\) に対し
\(−1 \leq \cos y \leq 1\)
であるから、
\(x\) が十分大きいとき、\(f(x)\) の分母に着目して
\(\displaystyle \frac{x − \cos\frac{x}{2}}{x + 1} \leq f(x) \leq \frac{x − \cos\frac{x}{2}}{x − 1}\)
分子に着目して
\(\displaystyle \frac{x − 1}{x + 1} \leq \frac{x − \cos\frac{x}{2}}{x + 1} \leq f(x) \leq \frac{x − \cos\frac{x}{2}}{x − 1} \leq \frac{x + 1}{x − 1}\)
すなわち
\(\displaystyle \frac{x − 1}{x + 1} \leq f(x) \leq \frac{x + 1}{x − 1}\)
ここで、
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \frac{x − 1}{x + 1} = \lim_{x \to \infty} \frac{x + 1}{x − 1} = 1\)
であるから、はさみうちの原理より
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \frac{x − \cos\frac{x}{2}}{x − \cos x} = 1\)
答え: \(\color{red}{1}\)
練習問題②「ガウス記号を含む極限」
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \frac{[x\pi]}{x}\) を求めよ。
ただし \([x]\) は \(x\) を超えない最大の整数である。
ガウス記号を含む極限では、ほぼ確実にはさみうちの原理を使います。
ガウス記号 \(\bf{[x]}\) の定義
実数 \(x\) に対して、\(x\) を超えない最大の整数を表す。
\(m\) が整数のとき、\([x] = m \iff m \leq [x] < m + 1\)
\(x\pi − 1 \leq [x\pi] \leq x\pi\) より、
\(x > 0\) のとき
\(\displaystyle \frac{x\pi − 1}{x} = \pi − \frac{1}{x} \leq \frac{[x\pi]}{x} \leq \frac{x\pi}{x} = \pi\)
すなわち
\(\displaystyle \pi − \frac{1}{x} \leq \frac{[x\pi]}{x} \leq \pi\)
ここで、
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \left( \pi − \frac{1}{x} \right) = \pi\)
より、はさみうちの原理から
\(\displaystyle \lim_{x \to \infty} \frac{[x\pi]}{x} = \pi\)
答え: \(\color{red}{\pi}\)
以上で練習問題も終わりです。
慣れるまでは少し大変ですが、不定形の極限を求める上で、はさみうちの原理は強力な武器になります。
練習を重ねて、使いこなせるようになりましょう!