この記事では、「絶対値」の意味や計算方法、絶対値記号の外し方をできるだけわかりやすく解説していきます。
絶対値を含む方程式や不等式の問題の解き方も紹介していきますので、この記事を通してぜひマスターしてくださいね。
目次
絶対値とは?
絶対値とは、ある数と原点 \(0\) との距離です。
下の図に示すように、数直線で考えるとわかりやすいです。
絶対値は「距離」であるため、常にプラス(正の数)です。
(「学校はここから \(− 3 \, \mathrm{km}\) 離れている」とは言いませんよね?)
そのため、負の数の絶対値を求めるには、元の数の符号を逆転させればよいです。
絶対値を示す記号は、「\(\color{red}{| |}\)」と書きます。
例えば、上記の \(2\) つの例を数式で表すと次のようになります。
- \(|1| = 1\)
意味「\(1\) の絶対値は \(1\)」 - \(|−3| = 3\)
意味「\(− 3\) の絶対値は \(3\)」
とてもシンプルですね!
絶対値の計算【性質】
上記のように、単なる整数の絶対値を求めるだけなら簡単です。
では、\(|a − 1|\) や \(|−x^2 + 4x|\) はどうでしょう?
文字が出てきたり、方程式になったりすると、途端に難しく感じませんか?
こういった問題を確実に解けるようになるために、まずは絶対値の性質を理解しましょう。
【性質①】絶対値は常に正の数
- \(a \geq 0\) のとき \(|a| = a\)
- \(a < 0\) のとき \(|a| = − a\)
絶対値の中身の正負によらず、絶対値は常にプラス(正の数)です。
中身がどんなに複雑でも、絶対値記号を外す際に意識することは絶対値の中身が正か負か(\(\bf{0}\) より大きいか小さいか)だけであることを覚えておいてください。
【性質②】絶対値の 2 乗は中身の 2 乗
\begin{align}\color{red}{|a|^2 = a^2}\end{align}
ある数の絶対値を \(2\) 乗すれば、絶対値記号を外せます。
これは、絶対値の中身が正でも負でも、\(\bf{2}\) 乗すれば必ず正の数となるためです。
絶対値記号を外すには、「中身の正負を見極めて外す方法(性質①)」と「絶対値を \(2\) 乗して外す方法(性質②)」があることを覚えておきましょう。
【性質③】絶対値の結合・分配
- \(\color{red}{|a| |b| = |ab|}\)
- \(\color{red}{\displaystyle \frac{|a|}{|b|} = \left|\frac{a}{b}\right|}\)
絶対値は、結合すること、分配することができます。分数であっても同様です。
絶対値同士を計算する際に用いる性質です。
絶対値記号の外し方【例題】
実際に計算しながら、絶対値の性質や外し方を理解していきましょう。
次の値を求めよ。
(1) \(|− 2.5|\)
(2) \(|− 7| + |2|\)
(3) \(|− 6|^2 − 5\)
(4) \(|4| \times |−2|\)
(5) \(\displaystyle \frac{|−3|}{|9|}\)
どれも、絶対値の中身の正負を見極めて絶対値を外していきます。
絶対値同士の足し算や引き算の場合は、先に絶対値を外してから計算します。
かけ算やわり算(または分数)の場合は、絶対値の中で \(1\) つの数字にまとめてから絶対値を外すとスムーズです。
(1) \(−2.5\) は負の数なので、符号を逆にして絶対値を外す
\(|− 2.5| = \color{red}{2.5}\)
(2) それぞれ絶対値を外してから足し算する
\(\begin{align}|− 7| + |2| &= 7 + 2 \\&= \color{red}{9}\end{align}\)
(3) 絶対値の \(2\) 乗 = 絶対値の中身の \(2\) 乗
\(\begin{align}|− 6|^2 − 5 &= (−6)^2 − 5 \\&= 36 − 5 \\&=\color{red}{31}\end{align}\)
(4) まず絶対値を \(1\) つに結合する
\(\begin{align}|4| \times |−2| &= |4 \times (−2)| \\&= |−8| \\&= \color{red}{8}\end{align}\)
(5) まず絶対値を \(1\) つに結合する
\(\begin{align}\displaystyle \frac{|−3|}{|9|} &= \left|\displaystyle \frac{−3}{9}\right| \\&= \left|− \displaystyle \frac{1}{3}\right| \\&= \color{red}{\displaystyle \frac{1}{3}}\end{align}\)
絶対値を含む方程式の求め方
方程式となっても、絶対値の基本的な考え方は同じです。
ただし、絶対値の中身に変数(文字)を含むときには注意しましょう。変数の値によって絶対値の中身の正負が異なるため、場合分けが必要な場合があります。
それでは、例題を確認しましょう。
例題①「場合分けなしの方程式」
次の方程式を解け。
\(|x − 2| = 5\)
絶対値の中身に変数 \(x\) があります。
右辺に変数が含まれない場合は、プラスマイナスをつけて絶対値を外すことができます。
\(|x − 2| = 5\)より、
\(x − 2 = \pm 5\)
\(x = \pm 5 + 2\)
\(x = − 3, 7\)
答え: \(x = − 3, 7\)
例題②「場合分けありの方程式」
もう \(1\) つ、問題を解いてみましょう。
次の方程式を解け。
\(|x − 3| = 2x\)
絶対値の中身に変数を含んでおり、かつ両辺に変数が存在します。
このようなときは、絶対値の中身が正の場合と負の場合で場合分けします。
\(|x − 3| \geq 0\) より、\(2x \geq 0\)
↑ 絶対値は常に正であるため、
右辺の \(2x\) も絶対に正の数
よって \(x \geq 0\) …①
(i) \(x − 3 \geq 0\)、すなわち \(x \geq 3\) のとき
\(|x − 3| = 2x\) は
\(x − 3 = 2x\)
\(x − 2x = 3\)
\(− x = 3\)
\(x = − 3\)
↓ 【重要】解が適切な範囲にあるかの確認
これは、①および \(x \geq 3\) を満たさないため不適。
(ii) \(x − 3 < 0\)、すなわち \(x < 3\) のとき
\(|x − 3| = 2x\) は
\(− (x − 3) = 2x\)
\(− x + 3 = 2x\)
\(− x − 2x = − 3\)
\(− 3x = − 3\)
\(x = 1\)
↓ 【重要】解が適切な範囲にあるかの確認
これは①および \(x < 3\) を満たす。
(i) (ii)より、方程式 \(|x − 3| = 2x\) の解は、
\(x = 1\)
答え: \(x = 1\)
場合分けの際、不等号や等号の使い方に悩むことがあります。
基本的に、もれ・重複なく場合分けされていれば、どのように場合分けしても問題ありません。
【OK例】
- (i) \(a \geq 0\)、(ii) \(a < 0\)
- (i) \(a > 0\)、(ii) \(a = 0\)、(iii) \(a < 0\)
- (i) \(a > 0\)、(ii) \(a \leq 0\)
【NG例】
- (i) \(a > 0\)、(ii) \(a < 0\)
(\(a = 0\) の場合が抜けている) - (i) \(a \geq 0\)、(ii) \(a \leq 0\)
(\(a = 0\) の場合が重複している)
絶対値を含む不等式の求め方
不等式も、基本的な解き方は方程式と同じです。
不等式では範囲を考える必要があるため、必要に応じて数直線を書けるようになると便利です。
さっそく練習問題を解いてみましょう。
例題①「場合分けなしの不等式」
次の不等式を解け。
\(|x + 7| < 1\)
右辺に変数が含まれない場合、場合分けはしないで、数直線上の距離として考えることができます。
\(x + 7\) という数は、原点から \(1\) までの間の距離にあると考えられますね。
\(|x + 7| < 1\) より、
\(−1 < x + 7 < 1\)
各辺に \(−7\) を足して
\(−8 < x < −6\)
答え: \(− 8 < x < − 6\)
このように、絶対値を数直線上の \(2\) 点間の距離と考えて、絶対値の中身の値や範囲を表すことができます。
まとめると、次のとおりです。
\(\color{red}{a > 0}\) のとき(右辺が正であるなら)、
\(\color{red}{\left\{\begin{array}{l}|x| = a \iff x = \pm a \\|x| < a \iff −a < x < a \\|x| > a \iff x < − a, x > a\end{array}\right.}\)
例題②「場合分けありの不等式」
次の不等式を解け。
\(|x − 2| > 2x − 5\)
右辺にも変数が含まれるときは、絶対値の中身が正の場合と負の場合で場合分けします。
(i) \(x − 2 \geq 0\)、すなわち \(x \geq 2\) のとき
\(|x − 2| > 2x − 5\) は
\(x − 2 > 2x − 5\)
\(x − 2x > − 5 + 2\)
\(− x > − 3\)
↓ 【注意】符号を逆転させると、
不等号の向きも逆転
\(x < 3\)
\(x \geq 2\) との共通範囲は、
\(2 \leq x < 3\) …①
(ii) \(x − 2 < 0\)、すなわち \(x < 2\) のとき
\(|x − 2| > 2x − 5\) は
\(− (x − 2) > 2x − 5\)
\(− x + 2 > 2x − 5\)
\(− x − 2x > − 5 − 2\)
\(− 3x > − 7\)
↓ 【注意】負の数で両辺を割ると、
不等号の向きが逆転
\(x < \displaystyle \frac{7}{3}\)
\(x < 2\) との共通範囲は、
\(x < 2\) …②
①、②より、不等式 \(|x − 2| > 2x − 5\) の解は、
\(x < 3\)
答え: \(x < 3\)
「一次不等式」の解き方に自信のない方は復習しておきましょう!
一次不等式とは?解き方や応用問題(文章題、絶対値や分数)
絶対値の応用問題
最後に、少しだけ難易度の高い問題にチャレンジしてみましょう。
応用問題①「ルートを含む式の解き方」
\(\sqrt{a^2} = |a|\) であることを利用して、\(x = m^2 + 9\) のとき、次の式を \(m\) で表しなさい。
\(\sqrt{x + 6m} + \sqrt{x − 6m}\)
絶対値の性質を利用して、式を変形する問題です。
与えられたヒントを基に、丁寧に解いてみましょう。
\(x = m^2 + 9\) より、
\(\sqrt{x + 6m} + \sqrt{x − 6m} \\= \sqrt{(m^2 + 9) + 6m} + \sqrt{(m^2 + 9) − 6m} \\= \sqrt{m^2 + 6m + 9} + \sqrt{m^2 − 6m + 9}\\= \sqrt{(m + 3)^2} + \sqrt{(m − 3)^2}\)
↓ \(\sqrt{a^2} = |a|\) を利用
\(= |m + 3| + |m − 3|\)
(i) \(m \geq 3\) のとき
\(|m + 3| + |m − 3| \\= (m + 3) + (m − 3)\\= 2m\)
(ii) \(−3 \leq m < 3\) のとき
\(|m + 3| + |m − 3| \\= (m + 3) − (m − 3)\\= m + 3 − m + 3\\= 6\)
(iii) \(m < −3\) のとき
\(|m + 3| + |m − 3| \\= − (m + 3) − (m − 3)\\= − m − 3 − m + 3\\= − 2m\)
したがって
答え:
\(\sqrt{x + 6m} + \sqrt{x − 6m}\) \( = \left\{\begin{array}{l} 2m (m \geq 3)\\6 (−3 \leq m < 3)\\− 2m (m < −3)\end{array}\right.\)
応用問題②「不等式を満たす整数の個数を求める」
大学入試レベルの問題です。
「平方根」や「分母の有理化」も含む複合問題ですので、それらの単元も復習しつつ、チャレンジしてみてください!
平方根とは?計算方法や求め方、近似値の覚え方、利用問題 有理化のやり方をわかりやすく解説!複素数の問題や難問も!
\(4 \geq |(\sqrt{3} + 1)x − 10|\) より、
\(|(\sqrt{3} + 1)x − 10| \leq 4\)
\(− 4 \leq (\sqrt{3} + 1)x − 10 \leq 4\)
\(− 4 + 10 \leq (\sqrt{3} + 1)x \leq 4 + 10\)
\(6 \leq (\sqrt{3} + 1)x \leq 14\)
\(\sqrt{3} + 1 > 0\) より、
\(\displaystyle \frac{6}{\sqrt{3} + 1} \leq x \leq \displaystyle \frac{14}{\sqrt{3} + 1}\) …①
ここで、
\(\begin{align}\displaystyle \frac{1}{\sqrt{3} + 1} &= \displaystyle \frac{\sqrt{3} − 1}{(\sqrt{3} + 1)(\sqrt{3} − 1)}\\&= \displaystyle \frac{\sqrt{3} − 1}{3 − 1}\\&= \displaystyle \frac{\sqrt{3} − 1}{2}\end{align}\)
より、①を変形して
\(6\displaystyle \frac{\sqrt{3} − 1}{2} \leq x \leq 14\displaystyle \frac{\sqrt{3} − 1}{2}\)
\(3(\sqrt{3} − 1) \leq x \leq 7(\sqrt{3} − 1)\)
↓ 範囲を近似値で表現する
\(\sqrt{3} ≒ 1.73\) より、
\(\begin{align}3(\sqrt{3} − 1) &≒ 3(1.73 − 1)\\&= 3 \times 0.73\\&= 2.19\end{align}\)
\(\begin{align}7(\sqrt{3} − 1) &≒ 7(1.73 − 1)\\&= 7 \times 0.73\\&= 5.11\end{align}\)
よって
\(2.19 \leq x \leq 5.11\)
したがって、この不等式を満たす整数は
\(3, 4, 5\) の \(3\) 個である。
答え: \(3\) 個
以上で応用問題も終わりです!
絶対値に苦手意識をもつ人は多いですが、基本を押さえていれば誰でも解けます。
いろいろな問題を解きながら、絶対値の計算に慣れていきましょう!