この記事では、「背理法」の意味や使い方について、できるだけわかりやすく解説していきます。
また、背理法で証明するときの手順なども丁寧に解説していきますので、この記事を通してぜひマスターしてくださいね!
目次
背理法とは?
背理法とは、ある命題を証明するときに、その命題が成り立たないと仮定すると矛盾が生じることを示し、その結果からもとの命題が成り立つという結論を導き出す証明方法のことです。
命題が成り立たないと仮定する
↓
仮定に矛盾があることを示す
↓
仮定が誤っている、つまり、命題が成り立つことが示される
命題の中には、与えられた条件を使って直接的に証明できるものと、直接的な証明が難しいものとがあります。
背理法は、直接的な証明が難しいときに有効な証明方法の \(1\) つです。
背理法は証明の流れが決まっているので、慣れてしまえば簡単に活用できるようになりますよ。
対偶証明法との違い
背理法と間違いやすい証明法に、「対偶証明法」があります。
元の命題を \(P\)「\(p \Rightarrow q\)」とすると、背理法と対偶証明法の違いは次の通りです。
- 背理法
\(\color{red}{P}\) の否定 \(\color{red}{\overline{P}}\)「\(\color{red}{p \Rightarrow \overline{q}}\)」の矛盾を示す
→ \(P\) が成り立つ
- 対偶証明法
\(\color{red}{P}\) の対偶「\(\color{red}{\overline{q} \Rightarrow \overline{p}}\)」が成り立つことを示す
→ \(P\) が成り立つ
背理法と対偶証明法の使い分けに悩む人も多いと思いますが、残念ながら明確な使い分けの基準はありません。
というのも、背理法でも対偶証明法でも解ける問題があるからです。
ですが、背理法の方がよく使われるのは次のような問題です。
背理法向きの問題は…
- 断定型の問題(「〜ならば〜」や「\(\Rightarrow\)」を含まないもの)
- 無理数であること or 有理数であることを示す問題
- 「少なくとも \(1\) つは〜」というフレーズを含む問題
背理法の手順【例題】
それでは、背理法で命題を証明する手順を詳しく解説していきます。
以下の例題で確認していきましょう。
\(\sqrt{2}\) が無理数であることを利用して、\(5 + 3\sqrt{2}\) が無理数であることを証明せよ。
まずは、命題が成り立たないことを仮定します。
「\(5 + 3\sqrt{2}\) は無理数である」の否定は、「\(5 + 3\sqrt{2}\) は有理数である」ですね。
次に、STEP.1 で立てた仮定を数式で表します。
「〇〇は△△である」という命題の場合は、「〇〇 = △△」という式を立てます。
今回の問題のように△△が日本語であれば、文字や数式で置き換えてあげます(例えば、\(k\) という文字を有理数とする)。
\(k\) を有理数とすると、\(5 + 3\sqrt{2} = k\) とおくことができる。
仮定に沿って計算を進めていき、途中で矛盾が生じてしまうことを示します。
この工程が、背理法のキモになります。
計算式の左辺と右辺でつじつまが合わなくなる方向へ式変形を進めて、注意深く計算式を見ながら矛盾を見つけます。
この問題では「\(\sqrt{2}\) が無理数である」ことを利用できるので、\(\text{(無理数)} = \text{(有理数)}\) というありえない式に持ち込みましょう。
\(5 + 3\sqrt{2} = k\) を式変形して
\(3\sqrt{2} = k − 5\)
\(\sqrt{2} = \displaystyle \frac{k − 5}{3}\)
\(k\) は有理数であるから、右辺の \(\displaystyle \frac{k − 5}{3}\) は有理数である。
\(\sqrt{2} = \displaystyle \frac{k − 5}{3}\) より、左辺の \(\sqrt{2}\) も有理数でなければならない。
この結果は、\(\sqrt{2}\) が無理数であることに矛盾する。
上記の矛盾が、最初の仮定によって生じたことを説明します。
証明の最後には、証明が終わったことを明示しておくとより丁寧です。
「\(5 + 3\sqrt{2}\) は有理数である」と仮定したことで \(\sqrt{2}\) が有理数であるという矛盾が起きた。
よって、「\(5 + 3\sqrt{2}\) は無理数である」という命題は成り立つ。
背理法により、\(5 + 3\sqrt{2}\) が無理数であることが証明された。
\(5 + 3\sqrt{2}\) は有理数であると仮定する。
\(k\) を有理数とすると、\(5 + 3\sqrt{2} = k\) とおくことができる。
\(5 + 3\sqrt{2} = k\) を式変形して
\(3\sqrt{2} = k − 5\)
\(\sqrt{2} = \displaystyle \frac{k − 5}{3}\)
\(k\) は有理数であるから、右辺の \(\displaystyle \frac{k − 5}{3}\) は有理数である。
\(\sqrt{2} = \displaystyle \frac{k − 5}{3}\)より、左辺の \(\sqrt{2}\) も有理数でなければならない。
この結果は、\(\sqrt{2}\) が無理数であることに矛盾する。
「\(5 + 3\sqrt{2}\) は有理数である」と仮定したことで \(\sqrt{2}\) が有理数であるという矛盾が起きた。
よって、「\(5 + 3\sqrt{2}\) は無理数である」という命題は成り立つ。
背理法により、\(5 + 3\sqrt{2}\) が無理数であることが証明された。
(証明終わり)
背理法による証明の手順はイメージできたでしょうか。
背理法で矛盾を見つける工程は、最初のうちは難しく感じるかもしれません。
多くの問題を繰り返し練習しながら、コツをつかんでいきましょう。
背理法の練習問題
それでは、実際に背理法を利用して命題を証明してみましょう。
練習問題①「無理数であることの証明」
\(\sqrt{7}\) が無理数であることを利用して、\(\sqrt{5} + \sqrt{7}\) が無理数であることを背理法で証明せよ。
この問題のように、\(\sqrt{ }\) を含む式が無理数であることを証明するときは背理法を利用できます。
立てた式の中に有理数か無理数かが示せない数(この問題では \(\sqrt{5}\))が残っていると、証明に行き詰ってしまいます(\(\sqrt{7}\) は問題文で無理数と示されているため利用可能)。
そんなときは、\(2\) 乗を利用して \(\sqrt{5}\) を消してみましょう。
\(\sqrt{5} + \sqrt{7}\) は有理数であると仮定する。
\(k\) を有理数とすると、\(\sqrt{5} + \sqrt{7} = k\) とおくことができる。
\(\sqrt{5} + \sqrt{7} = k\)
\(\sqrt{5} = k − \sqrt{7}\)
両辺を \(2\) 乗すると
\(\sqrt{5}^2 = (k − \sqrt{7})^2\)
\(5 = k^2 − 2\sqrt{7}k + 7\)
\(2\sqrt{7}k = k^2 + 7 − 5\)
\(2\sqrt{7}k = k^2 + 2\)
\(k ≠ 0\) より、両辺を \(2k\) で割って
\(\sqrt{7} = \displaystyle \frac{k^2 + 2}{2k}\)
\(k\) は有理数であるから、右辺の \(\displaystyle \frac{k^2 + 2}{2k}\) は有理数である。
\(\sqrt{7} = \displaystyle \frac{k^2 + 2}{2k}\) より、左辺の \(\sqrt{7}\) も有理数でなければならない。
この結果は、\(\sqrt{7}\) が無理数であることに矛盾する。
「\(\sqrt{5} + \sqrt{7}\) は有理数である」と仮定したことで \(\sqrt{7}\) が有理数であるという矛盾が起きた。
よって、\(\sqrt{5} + \sqrt{7}\) は無理数である。
背理法により、\(\sqrt{5} + \sqrt{7}\) が無理数であることが証明された。
(証明終わり)
練習問題②「\(3a + 2b\sqrt{5} = 0\) \(\Rightarrow a = b = 0\) を証明」
\(a , b\) が有理数のとき、\(3a + 2b\sqrt{5} = 0\) ならば \(a = b = 0\) であることを証明せよ。
ただし、\(\sqrt{5}\) が無理数であることを用いてもよい。
条件がたくさんあるように見えて、命題のどこを否定していいか迷ってしまいますね…。
「◯◯ならば△△である」という形で表されている命題を背理法で証明するときには、「△△である」という部分を否定して、「△△でない」と仮定します。
\(b \neq 0\) と仮定する。
\(3a + 2b\sqrt{5} = 0\) より、
\(2b\sqrt{5} = − 3a\)
\(b \neq 0\) より、両辺を \(2b\) で割って、
\(\sqrt{5} = − \displaystyle \frac{3a}{2b}\)
\(a, b\) は有理数であるから、右辺の \(− \displaystyle \frac{3a}{2b}\) は有理数である。
\(\sqrt{5} = − \displaystyle \frac{3a}{2b}\) であるから、左辺の \(\sqrt{5}\) も有理数でなければならない。
このことは \(\sqrt{5}\) が無理数であることに矛盾する。
\(b ≠ 0\) と仮定したことにより、\(\sqrt{5}\) が有理数であるという矛盾が起きた。
よって、\(b = 0\) である。
ここで、\(3a + 2b\sqrt{5} = 0\) に \(b = 0\) を代入すると
\(3a + 2 \cdot 0 \cdot \sqrt{5} = 0\)
\(3a = 0\)
\(a = 0\)
以上、背理法により、\(a, b\) が有理数のとき、\(3a + 2b\sqrt{5} = 0\) ならば \(a = b = 0\) であることが証明された。
(証明終わり)
これで練習問題はおしまいです。
証明問題は難しいと感じる人は多いと思いますが、練習を重ねることで証明方法が自然と身に付いてきます。
背理法も、さまざまな問題に取り組むことで慣れていってくださいね。