この記事では、「自然対数 \(\ln\)」や「自然対数の底 \(e\)」についてわかりやすく解説していきます。
それぞれの定義や微分積分の公式、常用対数との変換なども説明していきますので、ぜひこの記事を通してマスターしてくださいね。
目次
自然対数とは?
自然対数とは、ネイピア数 \(e\) を底とした対数 \(\log_e x\) のことです。
底を省略して単に \(\log x\)、または「natural logarithm」の頭文字をとって \(\ln x\) などと表されます。
\(e\) を底とする対数 \(\log_e x\) を「自然対数」という。
\(x > 0\) のとき
\begin{align}\color{red}{y = \log x \iff e^y = x}\end{align}
特に、
\begin{align}\color{red}{\log e = 1 \iff e^1 = e}\end{align}
\begin{align}\color{red}{\log 1 = 0 \iff e^0 = 1}\end{align}
数学・自然科学のさまざまな分野で必然的に登場するので、「自然」という言葉がつけられています。
高校数学では自然対数を \(\log x\) と表すのが一般的ですが、工学系諸分野では \(\ln x\) と表すことが多いです。
高校数学で底が省略された \(\log x\) が出てきた場合、自然対数だととらえてください。
それでは、「ネイピア数 \(e\)」とは一体なんのことなのでしょうか。
自然対数の底 \(e\) とは?
ネイピア数 \(e\) は、特別な性質をもつ定数で、以下のように定義されます。
\begin{align}e &= \lim_{h \to 0} (1 + h)^{\frac{1}{h}} \text{…①} \\&= \lim_{n \to \pm\infty} \left( 1 + \frac{1}{n} \right)^n \text{…②} \\&= 2.71828\cdots \end{align}
\(e\) は、\(2.71828\cdots\) と無限に続く無理数の定数なのですね。
いきなり極限が出てきてテンションが下がりますが(上がる人もいる?)、残念ながら①式も②式もよく用いられるのでどちらも頭に入れておきましょう。
その際、\(h\) や \(n\) の部分には別の記号を使うこともあるので、位置関係で覚えておきましょう。
ちなみに、①、②は簡単な置き換えで変換できます。
\(\displaystyle \lim_{h \to 0} (1 + h)^{\frac{1}{h}}\) において
\(\displaystyle h = \frac{1}{n}\) とおくと、
\(h \to +0 \iff n \to +\infty\)
\(h \to −0 \iff n → −\infty\)
であるから、
\(\displaystyle \lim_{h \to 0} (1 + h)^{\frac{1}{h}} = \lim_{n\to \pm\infty} \left( 1 + \frac{1}{n} \right)^n\)
ネイピア数 \(e\) は、まったく別のことを研究していた学者たちがそれぞれ異なるアプローチで発見した数です。
それぞれの数式の意義はここでは語り尽くせないほど興味深いものです。
気になった方は、ぜひ自分でもっと調べてみてください!
\(y = e^x\) と \(y = \log x\) のグラフ
指数と対数の関係から、ネイピア数 \(e\) を底とする指数関数 \(y = e^x\) と対数関数 \(y = \log x\) は逆関数の関係にあります。
そして、\(e\) が関係するこの \(2\) つの関数 \(y = e^x\) と \(y = \log x\) には、微分積分において重要な性質があります。
\(e^x\) の微分・積分公式
ネイピア数 \(e\) のべき乗 \(e^x\) は、微分しても形が変わらない(= それ自身になる)という性質があります。
逆もしかりで、積分しても \(e^x\) のままです。
- 微分
\(\color{red}{(e^x)’ = e^x}\) - 積分
\(\color{red}{\displaystyle \int e^x dx = e^x + C}\) (\(C\) は積分定数)
オイラーは、この微分しても変わらない指数関数の底として \(e\) を定義しました。
\(e\) は以下の等式を満たす実数 \(a\)
\begin{align} \frac{d}{dx} a^x &= \lim_{h \to 0} \frac{a^{x+h} − a^x}{h} \\ &= a^x \lim_{h \to 0} \frac{a^h − 1}{h} \\ &= a^x \end{align}
すなわち、\(e\) の定義は
\begin{align}\displaystyle \lim_{h \to 0} \frac{e^h − 1}{h} = 1\end{align}
ちなみに、\(e\) が無理数であることを証明したのもオイラーです。
このように、微分しても積分しても形の変わらない関数は \(e^x\) ただ \(1\) つだけです。
この性質は微積分の計算を非常に楽にするので、必ず押さえておきましょう。
\(\log x\) の微分・積分公式
自然対数 \(\log x\) の微分・積分の公式は次のとおりです。
- 微分
\(\color{red}{\displaystyle (\log x)’ = \frac{1}{x}}\) - 積分
\(\color{red}{\displaystyle \int \log x \ dx = x \log x − x + C}\)
(\(C\) は積分定数)
特に、\(\log x\) の微分が \(\displaystyle \frac{1}{x}\) になることは計算でよく利用するので、必ず覚えておきましょう。
また反対に、\(\displaystyle \frac{1}{x} \ (= x^{−1})\) を積分すると \(\log x\) が登場することも押さえておきましょう。
\(\displaystyle \int \frac{1}{x} \ dx = \log x + C\)
(\(C\) は積分定数)
「微分公式の証明」については、以下の記事で説明しています。
微分公式の証明一覧!導関数の定義どおりの導出を解説また、\(\log x\) の積分公式は「部分積分法」で導くことができます。
部分積分法の公式や証明、使うコツをわかりやすく解説!
【参考】自然対数と常用対数の変換方法
実用上、自然対数を常用対数に、または反対に変換したい場面がしばしばあります。
そのときは、以下の近似式を利用できます。
(見分けがつきやすいように、自然対数を「\(\ln x\)」、常用対数を「\(\log_{10} x\)」と表記します。)
- 自然対数 → 常用対数
\begin{align}\color{red}{\ln x ≒ 2.303 \log_{10} x}\end{align} - 常用対数 → 自然対数
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \log_{10} x ≒ \frac{\ln x}{2.303}}\end{align}
高校数学でこの近似式を使うことはほとんどないので、参考までにながめてくださいね!
この近似式は、対数計算でおなじみの底の変換公式から導けます。
\(\log_{10} x\) において、底を \(e\) に変換すると
\(\displaystyle \log_{10} x = \frac{\ln x}{\ln 10}\) より、
\(\ln x = \ln 10 \cdot \log_{10} x\)
ここで、\(\ln 10 ≒ 2.303\) (\(\iff e^{2.303} = 10\)) より、
\(\ln x ≒ 2.303 \log_{10} x\)
(証明終わり)
「底の変換公式」については、以下の記事で説明しています。
指数と対数の関係とは?変換公式や計算問題を解説!
例題「\(\log_{10} 2\) → \(\log_e 2\) の変換」
自然対数と常用対数を変換する例を示します。
\(\log_{10} 2 ≒ 0.3010\) がわかっているときに、\(\ln 2\) の値を大雑把に求めたい。
近似式を使うと、このように求められます。
\(\begin{align} \ln 2 &≒ 2.303 \log_{10} 2 \\ &≒ 2.303 \times 0.3010 \\ &≒ \color{red}{0.693} \end{align}\)
電卓があれば簡単に計算できますね。
以上で解説は終わりです。
自然対数 \(\log x\) やその逆関数 \(e^x\) の重要な性質は必ず押さえておきましょう。
また、ネイピア数 \(e\) にはここでは説明しきれなかった面白い性質がまだまだあります。
興味がわいた人は、ぜひ調べてみてくださいね!