この記事では、三角関数の「積和の公式」「和積の公式」について、語呂合わせによる覚え方や証明(導出方法)をわかりやすく解説していきます。
覚えるのが大変な公式ですが、導出方法と使い方をマスターし、使いこなせようになりましょう!
目次
積和の公式・和積の公式とは?
積和の公式とは、\(2\) つの三角関数の積を和に変換する公式のことです。
和積の公式はその反対で、\(2\) つの三角関数の和を積に変換する公式です。
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \sin\alpha\cos\beta = \frac{1}{2} \{\sin(\alpha + \beta) + \sin(\alpha − \beta)\}}\end{align}
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \cos\alpha\sin\beta = \frac{1}{2} \{\sin(\alpha + \beta) − \sin(\alpha − \beta)\}}\end{align}
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \cos\alpha\cos\beta = \frac{1}{2} \{\cos(\alpha + \beta) + \cos(\alpha − \beta)\}}\end{align}
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \sin\alpha\sin\beta = −\frac{1}{2} \{\cos(\alpha + \beta) − \cos(\alpha − \beta)\}}\end{align}
(見切れる場合は横へスクロール)
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \sin A + \sin B = 2\sin\frac{A + B}{2}\cos\frac{A − B}{2}}\end{align}
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \sin A − \sin B = 2\cos\frac{A + B}{2}\sin\frac{A − B}{2}}\end{align}
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \cos A + \cos B = 2\cos\frac{A + B}{2}\cos\frac{A − B}{2}}\end{align}
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \cos A − \cos B = −2\sin\frac{A + B}{2}\sin\frac{A − B}{2}}\end{align}
(見切れる場合は横へスクロール)
別の呼び名がついていますが、両者は根本的に同じ公式です。
左辺と右辺を入れ替え、角度の表し方を変更すると両者は一致します。
(\(A = \alpha + \beta\), \(B = \alpha − \beta\) が対応)
積和の公式と和積の公式は、数が多いうえにかたちも似ていて覚えづらいですよね。
いざというときに使えるように、語呂合わせや導出方法を覚えておくのが大切です。
積和の公式・和積の公式の覚え方(語呂合わせ)
ここでは、「和積の公式」の語呂合わせを紹介します。
積和の公式は、左辺と右辺を逆向きにすれば得られます。
① 師は信仰 (し は しん こう)
\(\displaystyle \color{salmon}{\sin A + \sin B} = 2\color{skyblue}{\sin \frac{A + B}{2}}\color{limegreen}{\cos \frac{A − B}{2}}\)
(\(\sin\) の和は \(\sin\), \(\cos\) の積となる)
② 師引っ越し (し ひっ こ し)
\(\displaystyle \color{salmon}{\sin A − \sin B} = 2\color{limegreen}{\cos \frac{A + B}{2}}\color{skyblue}{\sin \frac{A − B}{2}}\)
(\(\sin\) の差は \(\cos\), \(\sin\) の積となる)
③ 子は孝行 (こ は こう こう)
\(\displaystyle \color{salmon}{\cos A + \cos B} = 2\color{limegreen}{\cos \frac{A + B}{2}}\color{limegreen}{\cos \frac{A − B}{2}}\)
(\(\cos\) の和は \(\cos\) の積となる)
④ 子引く負け獅子 (こ ひく まけ しし)
\(\displaystyle \color{salmon}{\cos A − \cos B} = \color{orange}{−}2\color{skyblue}{\sin \frac{A + B}{2}}\color{skyblue}{\sin \frac{A − B}{2}}\)
(\(\cos\) の差はマイナスを付けた \(\sin\) の積となる)
係数や角度の部分は語呂に含まれていないので、前から「\(A\)、\(B\)、\(2\)、\(\displaystyle \frac{A + B}{2}\)、\(\displaystyle \frac{A − B}{2}\)」と共通して覚えておきましょう。
積和の公式・和積の公式の証明(導出)
積和の公式と和積の公式は「加法定理」から導けます。
慣れれば簡単に導出できるので、できれば語呂合わせだけに頼らず導出方法を理解しておきましょう。
【共通手順】加法定理の正負の和、差をとる
\(\sin\) の加法定理、\(\cos\) の加法定理の正負のペアの和と差をとると、積和の公式・和積の公式のもととなる式が得られます。
加法定理
\(\sin(\alpha \pm \beta) = \sin\alpha\cos\beta \pm \cos\alpha\sin\beta\)
\(\cos(\alpha \pm \beta) = \cos\alpha\cos\beta \mp \sin\alpha\sin\beta\)
\(\sin\) の加法定理より、
\(\sin(\alpha + \beta) = \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta\) …①
\(\sin(\alpha − \beta) = \sin\alpha\cos\beta − \cos\alpha\sin\beta\) …②
\(\cos\) の加法定理より、
\(\cos(\alpha + \beta) = \cos\alpha\cos\beta − \sin\alpha\sin\beta\) …③
\(\cos(\alpha − \beta) = \cos\alpha\cos\beta + \sin\alpha\sin\beta\) …④
① + ②、① − ②、③ + ④、③ − ④より
\(\color{salmon}{\sin(\alpha + \beta) + \sin(\alpha − \beta) = 2\sin\alpha\cos\beta}\) …(i)
\(\color{salmon}{\displaystyle \sin(\alpha + \beta) − \sin(\alpha − \beta) = 2\cos\alpha\sin\beta}\) …(ii)
\(\color{salmon}{\cos(\alpha + \beta) + \cos(\alpha − \beta) = 2\cos\alpha\cos\beta}\) …(iii)
\(\color{salmon}{\cos(\alpha + \beta) − \cos(\alpha − \beta) = −2\sin\alpha\sin\beta}\) …(iv)
(証明終わり)
あとは、(i) 〜 (iv) の式を変形すれば、積和・和積の公式を導けます。
【証明】積和の公式の作り方
積和の公式を得るには、(i) 〜 (iv) の式の両辺を入れ替え、\(2\) で割ります。
(見切れる場合は横へスクロール)
\(\sin(\alpha + \beta) + \sin(\alpha − \beta) = 2\sin\alpha\cos\beta\) …(i)
\(\displaystyle \sin(\alpha + \beta) − \sin(\alpha − \beta) = 2\cos\alpha\sin\beta\) …(ii)
\(\cos(\alpha + \beta) + \cos(\alpha − \beta) = 2\cos\alpha\cos\beta\) …(iii)
\(\cos(\alpha + \beta) − \cos(\alpha − \beta) = −2\sin\alpha\sin\beta\) …(iv)
式 (i) の左辺と右辺を入れ替えて、両辺を \(2\) で割ると
\(\color{red}{\displaystyle \sin\alpha\cos\beta = \frac{1}{2} \{\sin(\alpha + \beta) + \sin(\alpha − \beta)\}}\)
式 (ii) の左辺と右辺を入れ替えて、両辺を \(2\) で割ると
\(\color{red}{\displaystyle \cos\alpha\sin\beta = \frac{1}{2} \{\sin(\alpha + \beta) − \sin(\alpha − \beta)\}}\)
式 (iii) の左辺と右辺を入れ替えて、両辺を \(2\) で割ると
\(\color{red}{\displaystyle \cos\alpha\cos\beta = \frac{1}{2} \{\cos(\alpha + \beta) + \cos(\alpha − \beta)\}}\)
式 (iv) の左辺と右辺を入れ替えて、両辺を \(−2\) で割ると、
\(\color{red}{\displaystyle \sin\alpha\sin\beta = −\frac{1}{2} \{\cos(\alpha + \beta) − \cos(\alpha − \beta)\}}\)
(証明終わり)
【証明】和積の公式の作り方
和積の公式を得るには、(i) 〜 (iv) の式において角度の和と差(\(\alpha + \beta\) と \(\alpha − \beta\))を別の角度に置き換えます。
(見切れる場合は横へスクロール)
\(\sin(\alpha + \beta) + \sin(\alpha − \beta) = 2\sin\alpha\cos\beta\) …(i)
\(\displaystyle \sin(\alpha + \beta) − \sin(\alpha − \beta) = 2\cos\alpha\sin\beta\) …(ii)
\(\cos(\alpha + \beta) + \cos(\alpha − \beta) = 2\cos\alpha\cos\beta\) …(iii)
\(\cos(\alpha + \beta) − \cos(\alpha − \beta) = −2\sin\alpha\sin\beta\) …(iv)
\(\alpha + \beta = A\), \(\alpha − \beta = B\) とおくと、
\(\displaystyle \alpha = \frac{A + B}{2}\), \(\displaystyle \beta = \frac{A − B}{2}\) であるから
式 (i) 〜 (iv) は次のように書き替えられる。
\(\color{red}{\displaystyle \sin A + \sin B = 2\sin\frac{A + B}{2}\cos\frac{A − B}{2}}\)
\(\color{red}{\displaystyle \sin A − \sin B = 2\cos\frac{A + B}{2}\sin\frac{A − B}{2}}\)
\(\color{red}{\displaystyle \cos A + \cos B = 2\cos\frac{A + B}{2}\cos\frac{A − B}{2}}\)
\(\color{red}{\displaystyle \cos A − \cos B = −2\sin\frac{A + B}{2}\sin\frac{A − B}{2}}\)
(証明終わり)
このように、積和・和積の公式は加法定理から簡単に導けるので、無理に公式を丸暗記しなくても大丈夫ですよ。
積和の公式・和積の公式の使い方
積和の公式と和積の公式は、次のような場面で役に立ちます。
- 問題の角度を三角比のわかる角度に直したい
(\(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) など)
→ 練習問題①、練習問題② - 3 つ以上ある角度を統一して、式を整理 or 因数分解したい
→ 練習問題③ - 三角関数の積の積分を解消したい(数IIIの内容)
→ 練習問題④
詳しくは、それぞれの練習問題を確認してみてください。
積和の公式・和積の公式の練習問題
練習問題を通して、積和の公式・和積の公式の使い方をマスターしましょう。
練習問題①「sin75°cos45° を求める」
\(\sin75^\circ \cos45^\circ\) の値を求めよ。
\(75^\circ\) の三角比がパッと浮かびませんね。
このようなときに、積和・和積の公式を使うと角度を変換できます。
この問題は \(\sin\) と \(\cos\) の積なので、「積和の公式」が使えますね。
積和の公式 \(\displaystyle \sin\alpha\cos\beta = \frac{1}{2} \{\sin(\alpha + \beta) + \sin(\alpha − \beta)\}\) より、
\(\sin75^\circ \cos45^\circ\)
\(\displaystyle = \frac{1}{2} \{\sin(75^\circ + 45^\circ) + \sin(75^\circ − 45^\circ)\}\)
\(\displaystyle = \frac{1}{2} (\sin120^\circ + \sin30^\circ)\)
\(\displaystyle = \frac{1}{2} \left( \frac{\sqrt{3}}{2} + \frac{1}{2} \right)\)
\(\displaystyle = \frac{\sqrt{3} + 1}{4}\)
答え: \(\color{red}{\displaystyle \frac{\sqrt{3} + 1}{4}}\)
練習問題②「sin 5/12 π + sin π/12 を求める」
\(\displaystyle \sin \frac{5}{12}\pi + \sin \frac{\pi}{12}\) の値を求めよ。
この問題は \(\sin\) と \(\sin\) の和なので、「和積の公式」を使っていきましょう。
和積の公式 \(\displaystyle \sin A + \sin B = 2\sin\frac{A + B}{2}\cos\frac{A − B}{2}\) より、
\(\displaystyle \sin \frac{5}{12}\pi + \sin \frac{\pi}{12}\)
\(\displaystyle = 2\sin \left( \frac{\frac{5}{12}\pi + \frac{\pi}{12}}{2} \right) \cos \left( \frac{\frac{5}{12}\pi − \frac{\pi}{12}}{2} \right)\)
\(\displaystyle = 2\sin \frac{\pi}{4} \cos \frac{\pi}{6}\)
\(\displaystyle = 2 \cdot \frac{\sqrt{2}}{2} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}\)
\(\displaystyle = \frac{\sqrt{6}}{2}\)
答え: \(\color{red}{\displaystyle \frac{\sqrt{6}}{2}}\)
練習問題③「cos 3θ − cos 2θ + cos θ = 0」
\(0 \leq \theta \leq 2\pi\) のとき、\(\cos3\theta − \cos2\theta + \cos\theta = 0\) を解け。
\(\cos3\theta\), \(\cos2\theta\) を見ると、三倍角、二倍角の公式を使いたくなるかもしれません。
しかし、ここでは「和積の公式」を使って角度をそろえるとスマートに解けます。
(見切れる場合は横へスクロール)
\(\cos3\theta − \cos2\theta + \cos\theta = 0\)
\((\cos3\theta + \cos\theta) − \cos2\theta = 0\) …(*)
ここで、和積の公式 \(\displaystyle \cos A + \cos B = 2\cos\frac{A + B}{2}\cos\frac{A − B}{2}\) より
\(\cos3\theta + \cos\theta\)
\(= \displaystyle 2\cos \left( \frac{3\theta + \theta}{2} \right) \cos \left( \frac{3\theta − \theta}{2} \right)\)
\(= 2\cos2\theta\cos\theta\)
よって (*) は
\(2\cos2\theta\cos\theta − \cos2\theta = 0\)
\(\cos2\theta (2\cos\theta − 1) = 0\)
\(\cos2\theta = 0\) または \(2\cos\theta − 1 = 0\)
まず、\(\cos2\theta = 0\) の解を求める。
\(0 \leq \theta \leq 2\pi\) より、
\(0 \leq 2\theta \leq 4\pi\) であるから
\(\displaystyle 2\theta = \frac{\pi}{2} , \frac{3}{2}\pi , \frac{5}{2}\pi , \frac{7}{2}\pi\)
したがって、
\(\displaystyle \theta = \frac{\pi}{4} , \frac{3}{4}\pi , \frac{5}{4}\pi , \frac{7}{4}\pi\) …①
次に、\(2\cos\theta − 1 = 0\) の解を求める。
\(2\cos\theta − 1 = 0\)
\(\displaystyle \cos\theta = \frac{1}{2}\)
\(0 \leq \theta \leq 2\pi\) より、
\(\displaystyle \theta = \frac{\pi}{3} , \frac{5}{3}\pi\) …②
①、②より、解は
\(\displaystyle \theta = \frac{\pi}{4} , \frac{\pi}{3} , \frac{3}{4}\pi , \frac{5}{4}\pi , \frac{5}{3}\pi , \frac{7}{4}\pi\)
答え: \(\color{red}{\displaystyle \theta = \frac{\pi}{4} , \frac{\pi}{3} , \frac{3}{4}\pi , \frac{5}{4}\pi , \frac{5}{3}\pi , \frac{7}{4}\pi}\)
練習問題④「cos 3θ sin 2θ の積分」
\(\displaystyle \int \cos 3\theta \sin 2\theta \ d\theta\) の値を求めよ。
異なる関数の積の積分は、部分積分などのテクニックが必要なため手間がかかります。
そこで、「積和の公式」を使うと三角関数の積を解消でき、積分しやすくなります。
この問題では、三角関数の積分公式、および合成関数の積分の知識が必要です。
積和の公式 \(\displaystyle \cos\alpha\sin\beta = \frac{1}{2} \{\sin(\alpha + \beta) − \sin(\alpha − \beta)\}\) より、
\(\displaystyle \cos 3\theta \sin 2\theta\)
\(= \displaystyle \frac{1}{2} \{\sin(3\theta + 2\theta) − \sin(3\theta − 2\theta)\}\)
\(= \displaystyle \frac{1}{2} (\sin 5\theta − \sin \theta)\)
よって、
\(\displaystyle \int \cos 3\theta \sin 2\theta \ d\theta\)
\(= \displaystyle \int \frac{1}{2} (\sin 5\theta − \sin \theta)\ d\theta\)
\(= \displaystyle \frac{1}{2} \int \sin 5\theta \ d\theta − \frac{1}{2} \int \sin \theta \ d\theta\)
\(= \displaystyle \frac{1}{2} \left(−\frac{1}{5} \cos 5\theta\right) − \frac{1}{2} (− \cos \theta) + C\)
\(= \displaystyle −\frac{1}{10} \cos 5\theta + \frac{1}{2}\cos \theta + C\)
(\(C\) は積分定数)
答え: \(\displaystyle −\frac{1}{10} \cos 5\theta + \frac{1}{2}\cos \theta + C\)(\(C\) は積分定数)
以上で練習問題も終わりです。
積和の公式・和積の公式は覚えにくい厄介な公式ですが、加法定理から簡単に導くことができます。
しっかりと覚えて、使いこなせるようにしましょう!
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