この記事では、五心(重心・内心・外心・垂心・傍心)についてできるだけわかりやすく解説していきます。
それぞれの定義、性質、公式(求め方)を詳しく説明していくので、ぜひこの記事を通してマスターしてくださいね!
目次
五心とは?
五心とは、三角形の頂点や辺に関連する特徴的な \(5\) つの点、「重心」「内心」「外心」「垂心」「傍心」の総称です。
名前に「心」とついている通り、それぞれあるものの中心になっています。
- 重心(じゅうしん)
重さの中心(\(1\) 点で全体をバランスよく支えられる点)。
英語では「center of Gravity」のため、「点 \(\mathrm{G}\)」と表すことが多い。 - 内心(ないしん)
内接円の中心。
英語では「Inner center (または incenter)」のため、「点 \(\mathrm{I}\)」と表すことが多い。 - 外心(がいしん)
外接円の中心。
英語では「Outer center (または circumcenter)」のため、「点 \(\mathrm{O}\)」と表すことが多い。 - 垂心(すいしん)
垂線が集まる中心。
「Height(垂直方向の高さ)」に由来して「点 \(\mathrm{H}\)」と表すことが多い。
なお、英語では「orthocenter」。 - 傍心(ぼうしん)
傍接円の中心。
内心と似た性質をもつことから、同じ頭文字 \(\mathrm{I}\) か、アルファベット順で次の \(\mathrm{J}\) で「点 \(\mathrm{I_A}\), \(\mathrm{I_B}\), \(\mathrm{I_C}\)」「点 \(\mathrm{J}\), \(\mathrm{J’}\), \(\mathrm{J’’}\)」などと表すことが多い。
なお、英語では「excenter」。
それでは、五心それぞれの定義や性質、求め方をまとめていきます!
重心とは?
重心とは、物質や図形における重さの中心のことで、その \(1\) 点で全体をバランスよく支えられる点です。
ここでは、三角形における重心の定義・性質・求め方を説明します。
三角形の重心の定義
三角形の重心は次のように定義できます。
三角形の重心とは、\(3\) 本の中線の交点である。
中線
三角形の頂点と向かい合う辺の中点を結んだ線分。
三角形の重心の性質
三角形の重心には、「重心は中線を \(2 : 1\) に内分する」「重心と各頂点を結んでできる \(3\) つの三角形の面積は等しい」という \(2\) つの性質があります。
【性質①】重心は中線を 2 : 1 に内分する
【性質②】重心と各頂点を結んでできる 3 つの三角形の面積は等しい
三角形の重心の座標の公式
座標平面上において三角形の重心を求める公式は次のとおりです。
\(3\) 点 \(\mathrm{A}(x_1, y_1)\), \(\mathrm{B}(x_2, y_2)\), \(\mathrm{C} (x_3, y_3)\) を頂点にもつ \(\triangle \mathrm{ABC}\) の重心 \(\mathrm{G}\) の座標は
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \mathrm{G}\left( \frac{x_1 + x_2 + x_3}{3}, \frac{y_1 + y_2 + y_3}{3} \right)}\end{align}
「\(3\) つの頂点の座標を足して、\(3\) で割る」と覚えると簡単ですね!
次の \(3\) 点 \(\mathrm{A}\), \(\mathrm{B}\), \(\mathrm{C}\) を頂点とする \(\triangle \mathrm{ABC}\) の重心 \(\mathrm{G}\) を求めなさい。
\(\mathrm{A}(5, 2)\), \(\mathrm{B}(3, 6)\), \(\mathrm{C}(1, 1)\)
実際に図を書かなくても、公式に数値を当てはめるだけで求められます。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) の重心 \(\mathrm{G}\) の座標を \((x, y)\) とおくと、
\(\begin{align} x &= \frac{5 + 3 + 1}{3} \\ &= \frac{9}{3} \\ &= 3 \end{align}\)
\(\begin{align} y &= \frac{2 + 6 + 1}{3} \\ &= \frac{9}{3} \\ &= 3 \end{align}\)
よって、\(\mathrm{G}(3, 3)\)
答え: \(\color{red}{\mathrm{G}(3, 3)}\)
三角形の重心の位置ベクトルの公式
三角形の重心の位置ベクトルは以下のように求められます。
原点を \(\mathrm{O}\)、\(\triangle \mathrm{ABC}\) の各頂点の位置ベクトルを \(\mathrm{A}(\vec{a})\)、\(\mathrm{B}(\vec{b})\)、\(\mathrm{C}(\vec{c})\) とすると、重心 \(\mathrm{G}\) の位置ベクトル \(\vec{g}\) は
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \vec{g} = \frac{\vec{a} + \vec{b} + \vec{c}}{3}}\end{align}
三角形の重心と頂点の距離の公式
重心から三角形の各頂点への距離は、中線定理と重心の性質(中線を \(\bf{2 : 1}\) に内分)から求められます。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) において、各辺の長さを \(a\), \(b\), \(c\)、重心を \(\mathrm{G}\) とおくと、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \mathrm{AG}^2 = \frac{−a^2 + 2b^2 + 2c^2}{9}}\end{align}
内心とは?
内心とは、多角形に内接する円(内接円)の中心のことです。
ここでは、三角形における内心の定義・性質・求め方を説明します。
三角形の内心の定義
三角形の内心は次のように定義できます。
三角形の内心とは、各頂角の二等分線の交点である。
「角の二等分線」について説明しています。
角の二等分線とは?外角・内角の定理や性質をわかりやすく解説
三角形の内心の性質
三角形の内心には次の \(2\) つの性質があります。
【性質①】内心は内接円の中心である
【性質②】内心から三角形の各辺への距離(垂線の長さ/内接円の半径)は等しい
三角形の内心の位置ベクトルの公式
三角形の内心の位置ベクトルは以下のように求められます。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) の各頂点の位置ベクトルを \(\mathrm{A}(\vec{a})\), \(\mathrm{B}(\vec{b})\), \(\mathrm{C}(\vec{c})\)、各辺の長さを \(a\), \(b\), \(c\) とする。
このとき内心 \(\mathrm{I}\) の位置ベクトル \(\vec{i}\) は、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \vec{i} = \frac{a\vec{a} + b\vec{b} + c\vec{c}}{a + b + c}}\end{align}
三角形の内心と頂点の距離の公式
内心から三角形の各頂点への距離は、次の \(2\) つの求め方があります。
- 頂角で表す場合
\(\triangle \mathrm{ABC}\) において、内心を \(\mathrm{I}\)、内接円の半径を \(r\)、外接円の半径を \(R\) とすると、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \mathrm{AI} = 4R \sin\frac{\mathrm{B}}{2} \sin\frac{\mathrm{C}}{2}}\end{align} - 辺の長さで表す場合
\(\triangle \mathrm{ABC}\) において、各辺の長さを \(a\), \(b\), \(c\) とすると、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \mathrm{AI} = \sqrt{\frac{bc(−a + b + c)}{a + b + c}}}\end{align}
公式 1 は内接円と外接円の関係から、公式 2 は角の二等分線の性質から得られます。
外心とは?
外心とは、多角形に外接する円(外接円)の中心のことです。
ここでは、三角形における外心の定義・性質・求め方を説明します。
三角形の外心の定義
三角形の外心は次のように定義できます。
三角形の外心とは、\(3\) 辺の垂直二等分線の交点である。
三角形の外心の性質
三角形の外心には次の \(2\) つの性質があります。
【性質①】外心は外接円の中心である
【性質②】外心から 3 つの頂点への距離(外接円の半径)は等しい
三角形の外心の位置ベクトルの公式
三角形の外心の位置ベクトルは、頂角の正弦(\(\sin\))または余弦(\(\cos\))と辺の長さで表せます。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) の各辺の長さを \(a\), \(b\), \(c\)、各位置ベクトルを \(\mathrm{A}(\vec{a})\), \(\mathrm{B}(\vec{b})\), \(\mathrm{C}(\vec{c})\) とおくと、外心 \(\mathrm{O}\) の位置ベクトル \(\vec{o}\) は、次の 2 通りで表せる。
- 角のみで表す場合
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \vec{o} = \frac{\sin2\mathrm{A} \ \vec{a} + \sin2\mathrm{B} \ \vec{b} + \sin2\mathrm{C} \ \vec{c}}{\sin2\mathrm{A} + \sin2\mathrm{B} + \sin2\mathrm{C}}}\end{align} - 辺の長さと角で表す場合
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \vec{o} = \frac{a\cos \mathrm{A} \ \vec{a} + b\cos \mathrm{B} \ \vec{b} + c\cos \mathrm{C} \ \vec{c}}{a\cos \mathrm{A} + b\cos \mathrm{B} + c\cos \mathrm{C}}}\end{align}
三角形の外心と頂点の距離の公式
外心から三角形の各頂点への距離は外接円の半径なので、正弦定理で表せますね。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) において、各辺の長さを \(a\), \(b\), \(c\)、外接円の半径を \(R\)、外心を \(\mathrm{O}\) とすると、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \mathrm{AO} = R = \frac{a}{2\sin \mathrm{A}} = \frac{b}{2\sin \mathrm{B}} = \frac{c}{2\sin \mathrm{C}}}\end{align}
座標平面で求める場合も、各頂点からの距離が等しいことを利用できます。
(\(\mathrm{OA} = \mathrm{OB} = \mathrm{OC} = R\))
垂心とは?
三角形の各頂点から対辺に引いた \(3\) 本の垂線は必ず \(1\) 点で交わり、これを垂心といいます。
垂心は三角形特有の点であるといえますね。
三角形の垂心の定義・性質・求め方を説明します。
三角形の垂心の定義
三角形の垂心は次のように定義できます。
三角形の垂心とは、各頂点から向かい合う辺に下ろした垂線の交点である。
三角形の垂心の性質
三角形の垂心には、重心と外心との間に面白い性質が成り立ちます。
ある三角形の垂心を \(\mathrm{H}\)、重心を \(\mathrm{G}\)、外心を \(\mathrm{O}\) とすると、三角形の形や大きさに関係なく、次の性質が成り立つ。
- \(3\) 点 \(\mathrm{H, G, O}\) は一直線上に存在する
- \(\mathrm{OG : GH = 1 : 2}\)
ちなみに、この \(3\) 点を結ぶ直線は「オイラー線」と呼ばれます。
三角形の垂心の位置ベクトルの公式
三角形の垂心の位置も、内心・外心と同様に各頂点の位置ベクトルを用いて表すことができます。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) の各頂点の位置ベクトルを \(\mathrm{A}(\vec{a})\), \(\mathrm{B}(\vec{b})\), \(\mathrm{C}(\vec{c})\) とする。
このとき垂心 \(\mathrm{H}\) の位置ベクトル \(\vec{h}\) は、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \vec{h} = \frac{\tan \mathrm{A} \ \vec{a} + \tan \mathrm{B} \ \vec{b} + \tan \mathrm{C} \ \vec{c}}{\tan \mathrm{A} + \tan \mathrm{B} + \tan \mathrm{C}}}\end{align}
三角形の垂心と頂点の距離の公式
垂心から三角形の各頂点への距離は、三角比を使って次のように求められます。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) において、外接円の半径を \(R\)、垂心を \(\mathrm{H}\) とすると、
\begin{align}\color{red}{\mathrm{AH} = 2R|\cos \mathrm{A}|}\end{align}
傍心とは?
傍心とは、三角形の \(1\) 辺と他の \(2\) 辺の延長とに接する円(傍接円)の中心のことです。
三角形の傍心の定義・性質・求め方を説明します。
三角形の傍心の定義
三角形の傍心は次のように定義できます。
傍心とは、\(1\) つの頂角の二等分線と、\(2\) つの頂角の外角の二等分線の交点である。
角の二等分線の交点であるという特徴は、内心と共通していますね。
三角形の傍心の性質
三角形の傍心には次の \(3\) つの性質があります。
【性質①】傍心は傍接円の中心である
傍接円
三角形の \(3\) 辺(\(1\) 辺と \(2\) 辺の延長線)に外側で接する円。
三角形 \(1\) つにつき \(3\) 個の傍接円が存在する。
【性質②】傍心から三角形の 1 辺と、他 2 辺の延長線への距離(垂線の長さ/傍接円の半径)は等しい
【性質③】\(\triangle \mathrm{ABC}\) の内心 \(\mathrm{I}\) は、\(\triangle \mathrm{ABC}\) の傍心を頂点とする \(\triangle \mathrm{I_A I_B I_C}\) の垂心となる
三角形の傍心の位置ベクトルの公式
三角形の傍心の位置ベクトルの求め方を説明していきます。
傍心は内心と共通の性質をもつため、内心と同じような計算で求められます。
\(\triangle \mathrm{ABC}\) の各辺の長さを \(a\), \(b\), \(c\)、各頂点の位置ベクトルを \(\mathrm{A}(\vec{a})\), \(\mathrm{B}(\vec{b})\), \(\mathrm{C}(\vec{c})\) とする。
このとき \(\angle \mathrm{A}\) の二等分線上にある傍心 \(\mathrm{I_A}\) の位置ベクトル \(\vec{i_\mathrm{A}}\) は、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \vec{i_\mathrm{A}} = \frac{−a\vec{a} + b\vec{b} + c\vec{c}}{−a + b + c}}\end{align}
三角形の傍心と頂点の距離の公式
傍心から三角形の各頂点への距離には、次の \(2\) つの求め方があります。
- 頂角と外接円の半径で表す場合
\(\triangle \mathrm{ABC}\) の外接円の半径を \(\mathrm{R}\)、\(\angle \mathrm{A}\) の二等分線上にある傍心を \(\mathrm{I_A}\) とおくと、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \mathrm{AI_A} = 4R \cos \frac{\mathrm{B}}{2} \cos \frac{\mathrm{C}}{2}}\end{align} - 辺の長さで表す場合
\(\triangle \mathrm{ABC}\) の各辺を \(a\), \(b\), \(c\)、\(\angle \mathrm{A}\) の二等分線上にある傍心 \(\mathrm{I_A}\) とおくと、
\begin{align}\color{red}{\displaystyle \mathrm{AI_A} = \sqrt{\frac{bc(a + b + c)}{−a + b + c}}}\end{align}
以上で五心についての解説は終わりです!
垂心や傍心は問題で聞かれることは少ないですが、それぞれの定義や性質はしっかりと区別しておきましょう。
なお、三角形の五心の作図方法については以下の記事で説明しています。
三角形の五心(重心・内心・外心・垂心・傍心)の作図方法まとめ!